やみつきの楽しさ
パンづくりの世界

早朝5時取材のために朝日町に到着すると、テキパキと手を動かす堂用さんの姿があった。その日、厨房のオーディオからは1980年代の歌謡ソングが流れていた。一見寡黙でクールな職人の風貌からは想像し難い、リズミカルな曲調と堂用さんの素早い動作に驚いてしまう。

「自分の好きな音楽を聞きながら仕込み作業をすると集中できます。静かでゆっくりとした曲も好きですが、朝は時間との勝負でもあるので、ちょっと早いくらいのリズムがちょうどいいです(笑)」

▲「正直写真撮られるのは得意でない」と堂用さん。仕込み時間の厨房はダンスフロアのよう。
話していくと、ギャップが次々と出てきて、お茶目な人柄も顔をのぞかせた。

「朝日町で生まれ育ち、スポーツ推薦で入った大学まで、レスリングをずっと続けていました。格闘技のイメージからは遠いかもしれませんが(笑)、昔から料理やプラモデル制作など細かな手作業はずっと好きでしたね。」

関西の大学に通い、卒業を前に就職活動をしたがピンとくる仕事がなく、もともと興味があった調理・製菓の専門学校に入りなおしたという。

「専門学校を出て、神戸や大阪のパン屋さんで働きました。技術や考え方など学びが多くあった反面、自分にとって強いこだわりのある職人のもとで働くことは心身ともにとてもハードでしたね。最後は体調を崩してしまって。」

それがきっかけで28歳のころ、富山へUターンした。一時はパンと関係のない仕事に就いたが、パンづくりの楽しさが頭から離れず32歳の時、朝日町の古民家を改装し店舗を構えた。

▲古民家を改装した店舗。ここが堂用さんの原点。

「パンと向き合う生活から離れてみて、改めて自分のやりたいこと、好きな事を仕事にしたいと思いましたね。まずは実家から通える立地で勝負しようと現在のお店をオープンしました。」

オープン後、パンのおいしさが評判となり、町の内外から多くのお客さんが訪れるようになった。繁忙期2時から仕込みをはじめ、夕方まで販売するというスケジュール。作業はほぼ一人で行っている

「一人で店をやることで、お客さんの声を直接聞けるいい部分もあります。特に製造は決まりきったマニュアルもないので、簡単に人任せにはできません。大まかなレシピはもちろんありますが、気温や湿度、季節によって生地の発酵具合や作り方は変わるんです。見た目や手触り、ミキサーの回転音など、感覚や想像力を活かしたパン作りは毎日楽しいですよ()。」

さらなる「美味しい」を目指して
SOGAWA BASEでの挑戦

現在の店舗には食パンや惣菜パンから、ハード系と呼ばれる噛みごたえのあるパンまで30種類ほどのメニューが並ぶ。それぞれのメニューに対し、粉や酵母、フィリング(具やトッピング)の材料選びから、できあがりの食感や見た目、香り・味わいまで考えることは尽きないという。

「全てのメニューに、作りたいイメージがありますね。例えば食パンは冷凍して食べる場合も多いので、ご自宅オーブンで焼いた時一番美味しくなるような仕上がりにしています。クロワッサンであれば、食感が楽しい『バリッ、サクッ、モチ、ジュワー』となるようにしたい(笑)」

▲お客さんが食べるシーンを想像して設計されている食パン

その一方で、現在のお店では全てのメニューを100%、満足のいく方法で作ることができない現実あるという。

「お客様には申し訳ない部分もあるのですが、限られた時間と人手の中で多くの品数を提供する場合には、ショートカットすることがどうしても出てきます。例えばカレーパンなど惣菜系の具を一から手作りできないこともその一つです。」

時には自分が作りたいと思ったメニューがあっても、来てくださるお客さんと必ずマッチするわけではないと語る。

「自分が好きでオススメしているハード系のメニュー『セーグル』は、噛む力の弱いお年寄りのお客様はやはり堅くて食べ辛いと思います。朝日町は高齢化も進んでいるので、店をオープンしてみて、その部分でのギャップに悩んだことはありましたね。」

▲お客さんとの会話もパンづくりに活かされている

こうした背景から、考え抜いた末より大きな総曲輪のマーケットで挑戦することを決めた。両親の住む愛着のある朝日町から他所へ出店することは苦渋の決断でもある。

「いつも来てくださるお客様や、これまで協力してくださった方の顔を思い浮かべると、当初は総曲輪への出店はありえないと思いました。しかし、環境を変えチームを作ることではじめて実現できるパンづくりに、このタイミングで挑戦したい気持ちが強くなって。メニューのバリエーションも、それぞれのメニューの品質も、さらにパワーアップしたパンをまた食べてもらえると嬉しいです。」

力を活かし合って。
人と一緒につくりたい
パン屋のかたち。

新しい店舗では、今も十分に美味しいドーヨーのパンを、さらにバージョンアップすることを目指して準備を進めているという。

「この時のために、複数人で作った場合のパン作りの作戦や、もともと好きだった料理と製菓の勉強も進めてきました。新店舗ではじめて出すサンドウィッチや、焼き菓子づくりにも活かしたいと思います。ひとつひとつ、ドーヨーだけの特徴あるメニューを作っていきたいですね。」

▲左からベーグル、菓子パン、クロワッサン。全てのパンにイメージとアイデアがある。

▲堂用さんが大好きなメニュー「セーグル」。チームで作ることで到達できる品質があるという。

パン作りはもちろん、グッズ制作にも興味がある堂用さん。SOGAWA BASE内にオープンする他の店舗や地域のお店と共同作業で実現していきたい目標も持つ

「例えば魚屋さん・八百屋さん・肉屋さん・カレー屋さんとそれぞれの店専用のパンをつくり、一緒にサンドウィッチを作ってみたいですね。グッズは、小麦粉が入った大きな袋は良い質感の紙を使ったものが多いので、エコバッグを作ってみたいです。パンを使った雑貨も面白いんじゃないかな。」

これまでは一人きりでパンを作り続けてきた。そしてこれからはチームで一緒に楽しくパンを作り、多くの人に食べてもらうことを熱望していると語る。

「職人として自分がこだわる部分は当然ありますが、一方的に思いを押し付けられる辛さも修行時代には経験してきました。自分にも不得意なことたくさんあります。軌道に乗るまでアルバイトからのスタートになると思いますが、パン作りをはじめ接客・販売の工夫など、助け合って楽しんで店をつくっていける人と一緒に働きたいです。良い店になるためにできることをたくさん話し、食べてもつくっても楽しいパン屋を目指しましょう。」