手軽で美味しい
BiBって
なんだ?

▲なかやす酒販二代目、中山士門さんはシェフを経験したソムリエ。酒と料理のプロフェッショナルだ

「BiBの最大の特徴は大容量で軽いこと。ボトルの場合、液体が750mlで全体の重さが約1.5kg。重量の半分くらいが『容器』なんです。送料は重量計算なので、海外からワインが届くとしたら容器の部分にかかる送料って大きいですよね。BiBは通常3L入っていますが容器は限りなく軽い。輸送するエネルギーはもちろん、生産者が容器詰めする作業も少なくて済みます。」

瓶のように輸送中に破損してしまうリスクも少なく、光を通さないから劣化もしにくい。 余計なコストが少ないから、価格に対して中身のワインの品質が上げられるのだ。

「デメリットは正直、イメージ的なものぐらい。大量に入っている箱ワインは安物だよねという印象は大きいです。逆にデパートの紙袋や包装紙に包まれているといいモノだ、みたいな信頼ってありますよね。」

BiBは美味しくなさそうというイメージから、信頼をマイナスから積み上げる必要がある中で、どんな基準でワインを選んでいくのだろうか。

「僕らは飲んでナンボ、取り扱うものは当然僕らが美味しいと感じることを前提としています。でも『美味しいワインの定義とは?』って話しがあって。美味しいって個人の味覚の問題なので、全員が美味しくないワインってあまりないのです。でもその一方で粗悪なワインは山ほどあります。」

美味しくないと粗悪は定義が違う。例えば赤ワインと一緒にお刺身を食べたら、美味しかったはずのワインも美味しくないように感じてしまうという。

「マリアージュとか難しい言葉を使いがちですが、合わないものは単純に美味しくないという(笑)あとは喧嘩して『何だお前バカヤロー』とか言いながらワイン飲んでも美味しくないですよね。怒ってる時って味覚は鈍感になる。逆に幸福感を感じてる時は、敏感になるそうです。立山に登った時、普通のおにぎりでもいつもより美味しいでしょう?食を楽しむ空間やシチュエーションもかなり大切です。」

美味しいワインは、自分の幸福度や周囲の状況、合わせて食べるものも関係してくる。 では粗悪かそうでないかのボーダーラインとは一体何か?

「ワインをつくる畑や工場の全てを直接見ることはできないので、基準はあくまで味です。工業的に作られたものの多くは、味が平坦です。薬品の風味っていうのも存在する。たとえば固形のブイヨンときちんと素材から出汁をとったスープを飲み比べると、誰もが一目瞭然。これと同じく、ワインも飲み比べるとすぐにわかると思います。感覚は人それぞれなので『これが悪者だ!』ってことはないですが、僕らは何でも販売する必要はないかなと。」

将来技術が発展すると、手作りの風味を再現できるようになり、違いがわからなくなるという話もあるが、機械的に再現する限界もあると中山さんは感じているそうだ。

「違いがわからなくなるのは、人類の感覚が退化するんだろうなと思ったりもします。そんな違いがわからなくなっていく方向の、反対側を走っていたい。SOGAWA BASEは高級路線でもなく、とにかく安いだけのマーケットでもないので、BiBが物凄くマッチしやすいと思いました。大量安売り的な価値として見られがちなBiBだけど、世界では間違いなく美味しいものが、着実に増えてきているから。」

▲高岡本店には日本酒や酒のつまみも厳選されたものがところ狭しと並んでいる。

親子二代で伝えていく
酒屋としての大切なこと

▲生産者を訪ねた際の写真と、ワインの特徴や合う料理が丁寧にコメントされたポップ。

とにかく沢山売りたいわけではない。なかやす酒販は、自分たちが信じるお酒の魅力をきちんと伝えることに重きを置いてきた。

「昔はお酒だけでなく、米やたばこも今より重い国の許可が必要な専売商品でした。随分昔に酒販免許のルール変更があり、以前より自由にお酒が売れるようになったんです。スーパーやコンビニ、ドラッグストアが参入して『お酒は安く山ほど売る物』という常識に変わりました。酒屋は3つの選択肢に迫られたんですね。大量販売するディスカウントストアになるか、専門店化する。もしくは、何も変わらずに廃業するか。」

今営業を続けている地域の酒屋さんの多くは、何かしら専門特化している。焼酎や日本酒のラインナップにこだわっていたり、配達の機動力が高いといった特徴がそれぞれにある。

「元々うちもコンビニ業と配達中心で、よくある酒屋さんの一つでした。(先代代表の)父親が1995年に専門店をここ(現在の高岡本店)に構えて、ワインや日本酒の品ぞろえの面で呉西地区でトップの店になるぞ、という風に変えてくれたおかげで今があります。ロードサイドに大きな駐車場を持ったコンビニが乱立する未来を見通したうえで、コンビニ型の酒屋業を辞め専門特化したことは、先見の明があったと思います。」

2014年、中山さんは酒屋を継ぐことを決め、専門特化した酒屋の仕事の奥深さを思い知ったそうだ。

「僕は元々料理人だったんですが、酒屋は右から左に商品を流すだけの仕事だと思っていました。FAXで発注しておけば問屋さんが商品を持ってきてくれて、それに値段をつけて並べて、いつしか売れて。飲食店と比べたら調理などの技術も要らないし、『小売なんて楽勝』って思ってたんですね、本当に失礼な話だけど。しかし父親の酒屋は、まったく違っていました。酒蔵さんと毎夜のように打合せをして、ワインを買うためにフランスに渡り、1つの酒を売るために予想外の時間と労力を注いでいたのを見て、こりゃ大変だぞ、と。」

酒蔵との細やかな直接取引も多く、酒の仕入れだけでも取引先が100以上にのぼる。これからの時代の酒屋に必要なこだわりと、困難さも理解して引き継ぐことを決めた。

「なかやす酒販が地域からなくなっちゃ困るよな、父が40何年間やってきた、両親の酒屋を守るのは僕しかいないなと。僕自身としてもフランスで料理を学んできた経験から、世界中にあるワインを、日本でもビールやハイボール並みに浸透させたいという思いがあります。フランスやイタリアと違い日本人は『ワインや日本酒の敷居って高い』と思う方って、多いんですよね。それをどうにか払拭したくて。」

ちなみに中山さんの両親は現在、富山県南砺市にて「トレボー」というワイナリーを経営しはじめた。このワインはBiB Toyamaでも取り扱いがあり、興味がある方はぜひ深堀してみてほしい。

「両親は『引退するからあとは任せるよ!』っていうノリでした。これは、本当に感謝しています。後継ぎって、親から何か言われるっていうのが普通だから。辞めてから1年くらいでおもむろに70歳くらいの父親が『やぁ…100年続くワイナリーしたい』って言い出して。そのバイタリティは、男として、いち経営者として、すげーなと思います。」

▲南砺市で作られるワイン。今後北陸を代表するワイナリーの一つとなることが期待される。

コミュニケーション
(といいお酒が)
地域をよくする

▲セミナーなどで見られる中山さんの正装ソムリエスタイル。ワインの説明を聞くのが楽しくなる。

今回BiBワイン専門店という斬新なコンセプトを思いつく以前から、中山さんはサステナブルな考え方や地域との繋がりを大切に考えてきた。

「フランスから東京へ戻り最終的に富山で暮らすことを決めた時、レストランをやりたいというよりかは、地域貢献したいなって。やっぱり街が少しでもよくなることが大事と考えてました。たとえば帰ってきて最初にレストランをはじめた時は、野菜の仕入れを地元の農家さんからちゃんとやっていこうということで、朝畑で野菜をとってきて、ランチに使って、ランチが終わったら畑に行って、野菜をとってきて。肉や魚もできるだけ地元の食材を使うとか。」

近くの農家の野菜を自ら取ってきて使うレストラン。今では全国的にそのスタイルは増えつつあり、珍しくない話のようにも思えるが、2005年当時は誰もいなかった。

「大根1本発注したとして、北海道から3日かけて富山に到着していたりします。地元の農家の野菜なら収穫して1時間後にご飯になってしまう。鮮度も良いし、どうやって作ったのかもわかっている。モノの移動に二酸化炭素も出さない。当時はSDGsなんて言葉もなかったわけですが、地域や環境、美味しさを考えればそれが一番良いと考えていました。」

レストランを経営しながら、地域に暮らす人たちとの交流活動もコロナ以前は休みなく行なってきた。

「レストランって、自分で率先して出ていかない限り、基本的には生活の時間が合わないから、お客さん以外と会う機会がないんですよ。土日は働くし、サービス業って人との出会いが少ない。だから真っ先にやったのが、高岡の駅前で毎月開催する異業種交流会です。地元を活性化させるために、まず街の中で何か考えてる人たちと出会おうって。」

ワインや日本酒文化を、少しでも気軽に学べる場をつくろうと年間50回を超えるセミナーを開催したこともあった。飲食店のコンサルティング業もスタートさせ、年間5件ほどの飲食店の相談にも乗っているという。

「酒屋をしながらも人様の前で自分が得た経験をお話しする仕事をやってきたことは、やっぱり地域に貢献したい思いがあります。日本酒の大きなイベントも主催していますが、造り手と地域の人達が気軽に会話できように。どんなにロボットやAIが発達しても人と人とのコミュニケーションを超える体験は、きっとなかなか生み出せない。人との出会いのチャンスは、沢山つくりたいと思います。総曲輪でも新しいコミュニティを作っていきたい。」

新型コロナではお酒に関わる全ての業態が苦しい状況もあった。しかしお酒とコミュニケーションを通じて、人生を楽しむ機会がこれからも広がっていくように、中山さんは挑戦を続けている。

「人流を止めるってことが、いつの間にかお酒や会食が悪者になって。お酒を飲む楽しみがなくても生活できることがわかってしまって。実際、緊急事態宣言のエリアの売上が9割以上落ちたこともありました。その反動からか、一時期会食してもいい状況になった時、多くの人がお酒を飲み遊びだしたことは記憶に新しいですね。やっぱりお酒は人と人とのコミュニケーションにマッチする飲み物だってことも、ある意味コロナが教えてくれたと思います。人との会話はやっぱり楽しくて、お酒が体に合う人にとっては、相性が良いものじゃないかなと思います。だから良いお酒を販売する仕事を続けることに迷いはないです。」

▲原点でもあるなかやす酒販本店はまさに酒好きの宝庫。ぜひ訪ねてみてほしい。