楽しみの延長で
働く人には敵わない
クラフトビール道のはじまり
皆さんは「マイクロブルワリー」をご存知だろうか?マイクロブルワリーとは、大企業のビール工場と異なる、ビール醸造士のこだわりが詰まった小さなビール工場のこと。それぞれの工場によって、ビールの品質や風味、醸造手法やビール作りへの姿勢まで、様々な点で職人の個性が際立つ。世界的なクラフトビール人気は、個性的なマイクロブルワリーが多数誕生した影響が大きく、山本さんもその魅力に取り付かれた一人だという。
「ビールは黄色くて苦みのある爽やかな液体、という固定概念がありました。たまたまクラフトビールに出合い、フルーツビール、ペールエール、IPAといろんな種類を飲み比べていくうちに、色も香りも味わいもなんて多様で、なんて楽しい飲み物なのか!とびっくりして。特にマイクロブルワリーのビールは個性が強く、飲み歩くようになりましたね。」
当時の山本さんは、大学から新卒で入社した東京のIT企業に勤めて3年が過ぎた頃。もともとIT業界に興味・関心があって就職したそうだが、長期的にキャリアをつくる自信は持てなかったそうだ。
「同僚たちは自分よりももっとITの仕事が好きな人ばかりでした。新しい技術を勉強する時も、皆は好きでやっているのに、自分は仕事とわりきってやっていて…ある時、楽しみの延長で働く人には敵わないなと確信しました。それで『楽しそう』と眺めるだけだったクラフトビール業界へ飛び込もうかと思ったんです。」
無理に頑張るのではなく、自然に「やりたい」と思えることを仕事にしたほうが心も体も健康に暮らせると判断し、転職を決めた。しかし有名な転職情報サイトをいくら探しても、小さな規模で事業をしているマイクロブルワリーの求人は見つからなかった。
「ビール関連で求人があったのは大手ビールメーカーの営業の仕事くらいでした。仕方がなく、よく通っていたお店にダメもとで働きたいと言ってみたら、あっさりOK(笑)。接客のアルバイトからはじまって、その会社が新しいお店を作る時にビールを作りながら飲食店のマネージャーをする社員になりました。ここで今の働き方の基礎ができたと思います。」
趣味を仕事にすると嫌いになる。そんな風に言う人もいるが、山本さんは実際に働いてみて自分にはそれが合っていると語る。
「ビール作りは、夏は暑いし荷物も重たいので大変さもあります。でも一生懸命考えたレシピで出来上がったビールを飲む時は、どんな結果でも楽しいです(笑)。大好きなビールをつくって生活できることは本当に幸せ。毎日継続できる『ライフワーク』と、お金のために働く『ライスワーク』といいますが、自分は毎日ライフワークをしているほうが楽でしたね。」
氷見のまちが良くなれば
自分たちも良くなる
生まれ故郷でのチャレンジ
東京のマイクロブルワリーで働き始めて3年程がたち、お酒好きで意気投合した奥さんの梢さんとの間に子宝を授かった。当時暮らしていた町は保育所の待機児童問題など、出産や子育てに不安も多かったという。
山本さん「当時在籍していたお店も店舗数が増えて、会社と考え方が合わなくなってきたこともあって、移住を考えはじめました。妻の実家がある秋田に戻る案や、富山市で転職する案なども当時はありました。ただ漠然と、高校を卒業する時も、大学を卒業する時も、いつか氷見で働きたいとは考えていて、悩みましたね。」
梢さん「出会ったころから、夫はいつかビールで起業したい、地元でも活躍したいと言っていました。私は住む場所には強いこだわりはなかったし、中途半端な選択をするよりも『一番やりたいことを今やってみたら』と言いました(笑)」
これから子どもを育てる世代にとって、起業は大きなリスクと捉えられがち。しかし、梢さんは山本さんを後押しした。
梢さん「IT業界から転職して、給料が下がってもやり続けてきたビールの仕事だから、積み上げたものを活かしてほしいと思いました。子どもを育てるためにも働かなきゃいけないし、せっかく働くなら楽しいと思っていることのほうが継続できるでしょうから。」
こうして山本さんは、氷見でのチャレンジを決めた。店舗のオープンからおよそ2年がたってみて、氷見での仕事と暮らしぶりはどうだろうか。
山本さん「氷見にはクラフトビールが好きな人はほとんどいないだろうと覚悟して店を始めたのですが、意外と多くてそれは本当に良かった (笑)。ブルーミンをきっかけにクラフトビールを好きになってくれる方に、その方が好むビールの種類をご説明することで、後日別の会社が作ったビールとうちのビールを比較した感想がもらえたりするのも嬉しいです。」
梢さん「私はお客さんや地域の方々に秋田から嫁にきましたと伝えるたびに『遠くから気の毒な、よく来たね』と温かい言葉をいただけて(笑)。氷見の方々に歓迎してもらえて、移住してよかったなと思っています。」
氷見の高校生へのスピーチや、Uターン希望者のツアーガイドなど、氷見での活躍の場が増えてきた山本さん。まちへの思いは大きい。
「ブルーミンの使命の一つは『ビール人口を増やす』こと。まちの人口が減少していく中で、ビール人口を増やしていくには、美味しいビールを作ることを前提に、経済的にも継続的に事業を進める必要があります。氷見のまちとブルーミンが目指す先は同じ、と思っています。」
「ビール人口を増やす」ために
総曲輪での新店舗とこれから
氷見には海と里山の豊かな食があり、ワイン・日本酒も凄腕の作り手がそろう。「食と醸造酒のまち、氷見。」と呼ばれる日が目の前に来ている。その実現のためにも、山本さんは氷見で現在の店舗とビール製造を続けながら、SOGAWA BASEへ出店することを決めた。
「ビールで氷見を盛り上げるためにも、事業をある程度拡大したいと思っています。総曲輪ではブルーミンのビールをより多くの方に楽しんでもらい、なおかつビールに詳しいお客さんにさらに楽しんでいただくため、他の作り手の美味しいビールもセレクトしてご用意する予定です。生ビールはもちろん、自宅用のパッケージ商品もあります。これからは総曲輪も自分のまちという気持ちで、つながりを大事に役割を全うしたいです。」
氷見でのビール作りも3つのジャンルを軸に、これからさらに磨きをかけるという。まずは山本さんが好きなペールエール/IPAスタイルの定番商品。次に、氷見や富山の素材や食に携わる人と一緒につくるローカル感の高いコラボ商品。そして世界でも新規性の高い「クレイジーな」商品だ。
「漁師町のブルワリーとして商品のストーリーを伝えながら、普段ビールを飲まない人にも馴染みやすいビールを作ることが理想です。一見クレイジーですが『出汁シリーズ』として、昨年は氷見の煮干しを使った『煮干しブラック』を作りました。将来的には氷見市内に工場を作って雇用も創出できれば良い。お客さんとのつながりから、自然といつか世界中で飲んでもらえるようになれば、最高ですね。」
*求人募集は終了しました。