手探りの挑戦から
はじめたっていい
「昔から食べることが好きで、食べた事のない食材を集めては家で料理するのが趣味なんです。この前はお客さんの料理人に教わり、フォン・ド・ヴォー(仔牛をベースにしたフランス式のだし汁)を作ったんですよ」
河田さんは元々名古屋で育ち、3年間社会人経験をした後、2002年に両親の故郷・富山へ移住した。自宅近くにあった富山の精肉卸の会社に偶然入ったことが創業のきっかけだったそう。
「入社して3年間、営業として働きました。始めてみると楽しかったですね。元々独立しようとは思ってなかったのですが、責任ある立場を任せてもらえるようになった時、会社と意見がぶつかることが多くなってしまって。お客さんからも『独立してほしい』という後押しの声を多くいただいたこともあり、悩みましたが思いきって創業しました。」
創業から2年後、現在の自社工場を建てるまでの間は上市にあった肉屋の厨房を間借りして、肉の卸売りを行なったという。
「創業から5年くらいはがむしゃらでした。とにかくお客さんに欲しいと言ってもらえるものをきっちりお届けする、その土台づくりに必死に取組む日々。自分は肉の切り方ひとつ知らなかったので大変でしたが、新しいことができるようになることには楽しみを感じていましたね。」
こうした経験からか、河田さんは「柔軟に物事を考える人」という印象がある。
「自分自身3年おきくらいに転機のある人生を送ってきました。その都度その都度の人生があり、今があるんです。実は大学も中退しているんですが、その都度でなんとかやってこれて(笑)。だからこそ、常識にとらわれずに変化できることがあるのかもしれません。これまでの人生で一番長く続けてこられたことは、やっぱりK・MEATかな。」
精肉卸売店としての
ポリシーと組織作り
精肉卸売の仕事はプロフェッショナルに向けて販売を行なっているため、働いている姿を目にする機会は少ない。一体どんな仕事なのか?
「肉の目利きという役割もありますが、肉屋の本質は『流通業』だと思っています。K・MEATの使命は、ニーズに合ったいい品物をいい状態のまま、お客さんに届けること。それから、私たちの商品は生き物なので『捨てることはありえない』と思っています。何ひとつムダにしない工夫も、仕事の一つです。」
例えばK・MEATで販売しているイノシシのソーセージもその工夫を凝らした一品だ。
「2013年ごろ、富山で害獣として駆除されたイノシシを販売できないか、と相談を受けました。イノシシは食肉としては味の個体差が激しく、肉屋は誰も扱いたがりません。自分はよそものだったのに富山で商売をさせてもらっているので、半分恩返しという気持ちで利益にならなくてもやってみようと。試行錯誤を重ねて、安定して美味しいウインナーを製品化しました。」
イノシシ肉の件も含め、経験が少なかったからこそ、普通は肉屋がやらないことも型にとらわれずに取り入れてきた。そんな河田さんのモットーは何事も1番最初に取り組むことだという。
「業界のマナーとして前職と取引がある会社から肉を調達することはできず、新商品の開拓に苦労した頃がありました。氷見の精肉会社に相談にのってもらった際に、氷見牛を売り出してブランド化していきたいという話をお聞きして。当時はまだ流通しておらず、一番手だったので始めました。」
卸売業として、これからも富山の中で出会う飲食店に食肉を届けていく。同時に、新しく中国のとある都市で商売をはじめることも視野にいれている。
「中国では一部日本産の牛肉を名乗った偽物も出回っているそうで、需要があるのなら、全国にある良質な国産牛を届けたいと思っています。何でもそうですが、売れるかどうかは正直わかりません。でも二番煎じではいけないとも思っています。だから精肉&食堂というスタイルも富山で一番にやりたいです。 」
生鮮食品を扱う会社はどこでもそうだが、冬は寒く、体力が必要になる仕事も多い。しかしK・MEATで働く面々は若い人や女性の割合も多く、そこに意外さも感じた。
「創業当初はバタバタで、入れ替わりも少なくありませんでした。しかし現在は、10年以上一緒に働いているメンバーが多いですね。社員は特に20〜30代が多いです。女性が長く勤続してくれるのは商売の性質上、時間的な融通がききやすいからかもしれません。」
一般的な企業では朝礼や夕礼、時間を合わせた会議なども必要で、メリットもあるが、K・MEATでは働く人にとって融通がきく方法をとっている。
「社員も、なるべく来られる時間に来てもらい、いい働き方をしてもらえればと思っています。そのため、一人一人出勤時間も退社時間もちがいます。働いてもらえるほうがありがたいので、その人の暮らし方に合わせた勤務時間でうまく調整しています。仕事の量はある程度決まっているので、調整はききやすいです。」
また性別に関わらず、しっかりした給与水準や保証を担保する努力も進めているという。
「なるべく業績が給与に反映されるよう努めています。楽な仕事ではないので、一般的な平均給与より少しでも、自分が若い頃もらっていたよりも多く給与がもらえる会社にしたいなと。世の中が変わってきているので、いち早く時代に合った方法は取り入れていきたいです。」
バラエティ豊かな
肉屋と食堂
SOGAWA BASEで取り組む店は、K・MEATが扱う肉を体験できるアンテナショップとしてリーズナブルなものから高級品まで、幅広い価格帯のものを用意する予定だという。
「精肉小売店は以前からやってみたかったことの一つです。在庫の回転が良くなることや、富山市中心部の様々な飲食店の方との出会いが広がることも期待していますが、なにより取り扱っているあらゆる肉を家庭にも広げたいと思っています。飲食店に行った時『どこで買っているの?』と思うような肉との出会いになればと。メインとなる牛肉は立山産からアメリカ産まで、珍しい商品としては、仔牛の肉やラム肉、フォアグラの小分けなども検討しています。」
そしてそれらの肉がその場で食べられる食堂では、河田さん自ら焼き加減や特製のたれなど試作中だという。
「会社を経営しながら、勉強のために夜先輩の焼肉屋さんで働かせてもらった経験があるんです。今はその過去を振り返りつつ、素材を活かしたメニュー作りができるよう研究に明け暮れています。」
ランチにはさまざまなお肉とトッピングがセレクトできるどんぶりものを中心に、ディナーにはセルフスタイルでステーキやしゃぶしゃぶを楽しめるお店を検討している。
「たくさんの方に食べてもらいたいですが、特に『我こそはお肉好き』という方に食べてみてもらいたいですね。『こんなお肉がこの値段で?』と思ってもらえるように頑張ります。うまくいけば、富山はもちろん慣れ親しんだ名古屋の地でもお店を出せたら理想的です。」
新店舗「beef kitchen by K・MEAT」では一緒に店を作り上げるスタッフを募集している。小売や飲食は初出店だからこそ「自分たちで決めること」に楽しみを見出してほしいという。
「オープンから安定した状態になるまでには、長く時間がかかってしまうかもしれません。フランチャイズ店のように挨拶ひとつから決まった職場ではないので、勉強しながらより良い方向にどんどん変化していくことを楽しめる人と、一緒に気持ちよく働けると嬉しいですね。」