天秤が釣り合って
実現できること

二人の出会いは、カレー好きな中山さんがアジャードさんの働いていた店に訪れた時だった。

アジャードさん「これまで富山の2つのインド料理店で勉強させてもらったんですが、富山に来て最初に働いていた店へ中山さんが食べに来てくれて、顔馴染みになりました。その時はたいして話さなかったし、特に仲良くもなかったんです(笑)」

▲インドから富山へ訪れ10年。アジャードさんは富山での暮らしを気に入っていると話す。

中山さん「もともとカレーが好きでいろいろな店に食べに行っていたのですが、今のお店を一緒にはじめる前、アジャードが高岡市の六家という場所で自分の店をオープンすると聞いて。食べにいったら彼が独自に作ったカレーに惚れてしまい、すぐに常連になりましたね。」

アジャード「そこからよく話すようになりしばらくたったころ、中山さんがいつか店をやりたいと言っていたので『店を一緒にやろうか?』と言ったら、一週間後くらいに店に来て、本気で『やろう』って。」

中山さん「アジャードは日本語を上手に話しますが、日本国籍はまだないので、自分だけで店舗を経営するには資金面など様々なハードルがありました。一緒に組めば、彼の料理をもっと多くの人に楽しんでもらえるかもしれないと思って、ぜひやりたいと。」

中山さんは、建設関係の会社を経営している。高校卒業後、防水職人として8年ほど修行をし、2013年に独立・創業した。一方アジャードさんはインドで料理人の修行を積んだ後、2006年に富山へ来日。2016年に独立し、その翌年から二人で現在の店舗をはじめたそうだ。二人は互いに信頼し、それぞれの役割を担ってきた。

中山さん「開店1年目こそなかなか苦労もしましたが、お客さんも美味しいと言ってくださり、順調に来客数が増えてきました。料理のことはアジャードに任せていて、彼の考えを最大限尊重したいと思っています。僕は出店計画を考えたり、彼だけでは難しい部分を全面的にサポートして、経営する役割ですね。」

▲二人は良きパートナー関係。ちなみに中山さんは純日本人である。

経営者と料理人の間で意見の相違や仲違いが生まれることはないのだろうか、という心配は無用のようだ。

中山さん「たとえば、当初アジャードは美味しいものをお客様に提供するために、メニューの原価率がとても高かったんです。それでは運営を続けていけないと判断をし、話し合いの末、適切な原価率で高品質なメニューを作ることができました。料理人と経営者という天秤になっているからこそ、実現できることがあるはず。将来的にはKHUSHIを法人化し、会社組織としてもっと成長させていきたいです。」

南インドカレーを皆で
楽しむ場を目指して

KHUSHIでは定番のインドカレーをはじめ、ビリヤニ(インドの炊き込みご飯)、タンドリーチキンをはじめさまざまなメニューがあるが、なんといっても「南インド」のカレーメニューが人気だ。SOGAWA BASEでも、南インド料理を中心に多数のカレーメニューを用意している。

アジャードさん「富山県には北インドのカレーを出す店はたくさんありますが、南インドのカレーを出す店はまだ少ないですね。北インド料理の特徴は甘い感じの味付けで、キーマカレーやバターチキンカレーがその代表。南インド料理は使用する食材やスパイスも北インドとは違い、豆やココナッツをよく使うのも特徴です。」

▲「ミールス」は南インドでよく食べられる定食のようなもの。米と様々な味わいのカレーをほどよいバランスで混ぜ合わせ食べる。

インドの国土は広く、北と南では気候や風土が異なるため、使用する食材や食文化は大きく変わる。例えば、よく使用するスパイスは北インドではガラムマサラ、南インドではカレーリーフという違いもそうだ。

アジャードさん「南インドはケララやチェンナイという街が有名です。菜食主義者も北インドより多いため、マスタードオイルもよく使います。僕は北インド生まれで、北インドの家庭料理を食べて育ちました。でも料理人として修行を積んだのは南インドなので、両方の料理に自信があります。」

中山さん「南インド料理はヘルシーで、女性にもおすすめです。僕のお気に入り南インド料理は『ドーサ』。クレープ状の料理で、手でちぎって食べるのが楽しいです。」

▲左側の三角に巻かれた「ドーサ」は中山さんオススメ。「ナン」ともまた違った食感で楽しい。

アジャードさんは本場仕込みの南インド料理を、富山の人々が好むようにアレンジし提供しているという。

アジャードさん「向こう(インド)のカレーをそのまま作ると、稀にすごく好んでくれる日本人もいますが(笑)多くの人にとっては辛すぎたり甘すぎたり、本場の味すぎてもいけないことを富山に来て学びました。老若男女の口に合い、たくさんの人にインド料理の美味しさを楽しんでもらいたいから、今も研究の日々です。」

近年、全国的にも南インド料理の人気は高まってきている。南インド料理のためのスパイスや材料は富山ではなかなか手に入らないが、KHUSHIではその販売も手がけていく予定だ。

▲高岡本店ではインドの食材や雑貨も取り扱っている。

アジャードさん「スパイスや食材は東京にある専門店から買っているものもありますが、あとは企業秘密です。SOGAWA BASEでも一部販売する予定なので、興味がある人はなんでも聞いてくださいね。」

KHUSHIの成長と
これから

SOGAWA BASEで新店をオープンするため、アジャードさんの料理人仲間が新たにインドからやってきた。現在は日本向けにアレンジした料理法を特訓しているという。

▲朗らかな性格の4人だが、料理に向き合う目は真剣そのものだ。

アジャードさん「現在KHUSHIでは自分も含めて4人のインド人シェフがいますが、全員名字はシェーク。親戚でもないのですが、インドでシェークという名前はとても多いんです(笑)富山の人は優しいし住みやすいから、皆来たがっていますよ。」

総曲輪周辺には多様なカレー店があり、激戦区として盛り上がってきているが、お二人にとってはそれも楽しみな要素の一つであるようだ。

中山さん「カレーは固定ファンも多いし、いろいろな味が楽しめるのは良いことですよね。もともと射水や高岡周辺にはパキスタンやインドのカレー店も数多くあって、富山の多様なカレーを地元の方はもちろん観光客にも気軽に楽しんでもらえたら嬉しいです。我々の南インドカレーも、ぜひ体験してみてください。」

順調に事業が成長していけば、将来的にはさらに店舗を展開することも、二人は目指している。

中山さん「アジャードとも話しているのですが、レストランはもちろん富山県内でのテイクアウト専門店の展開や、ゆくゆく金沢市に出店することも視野にいれています。KHUSHIで料理を学んで、のれん分けをするということも将来的には出てくるかもしれません。」

アジャードさん「厨房内のメンバーは、今はインド出身者ばかりですが、日本人でもインド料理を勉強したい人がいれば、ぜひ一緒に働いてみたいです。まずは接客からはじめてもらうかもしれないけど、メニューやサービスを考えたり、国籍も関係なく、スタッフ全員で協力していいお店を作っていきたいですね。」

▲高岡本店ではインドを感じる内装も楽しめる